はると自己     前田 隆一

日比谷公園の曙の太陽と雨

空くもりひとりさびしくあけぼのにさくらさきしをみてありにけむ

いまはたださんびきの鶴のならびゐて、動かざりけりあけぼのの公園

うつくしき鳥はおりにてキキとなく、まことうれしき春の太陽

紅椿あまたさきけり、雨のなかしんぼりぬれてひとりみかへる

芝公園のまひる

あおあおとみそら高くすつきりと大樹動かずあまた立ちたり

樹々ゆれず空にすつきり立ちており春のまひるの静かな公園

樹の根をばふみてのぼりぬ、小高き山にわれひとりなり、麗春

春の一日

起きいづれば家の軒端に照りかへす陽をみる朝のよくもつづきし

鐵道の線路にひとつうつくしき花を見にけりなんの花かも

かへりみちあまた乙女とすれちがひ、みかへりたれば赤き落日

この心わが悲しみをとこしえにまもりてひとり春をまつかな

めのまへに赤くちいさき實のあまた光るなりけり春の午後かな

「ぺんぺん草」第二輯 偶像詩社一九一五年五月